NotEqualさん作。
―簡易年表、発言クリップ、音楽性―

 

◇ ノルウェー

ノルウェーは国連の“生活の質指標”で第一位の国である(世界有数の裕福な国である)。ノルウェーが風変わりな国というのには正当な理由がある。山だらけのこの寒い国は、気候もひどく、暮らしにくい一方、豊かな自国の神話がある。そういった要素がブラック・メタルに溶け込んでいる。

幼稚園から社会性の教育を始め、騒がず、不満を言うなと教えられる。何かに反抗することをよしとはしない。しかし、そういった教育により、憎悪の対象が権威や教会になってしまう。

マティン・アルスヴォーグ(キリスト教関係者)
「ノルウェーはとても恵まれた国で、生活水準も高い。それが若者をうんざりさせるのだと思う。自己証明になるものが何もないよりは、邪悪なものと自分を同一化するほうがマシだと思っているのかもしれない。」

サモス(Emperor)
「アンチ・クリスチャンであることは朝飯を喰うのと同じ感覚だ。信念とかそういう大したものではなく、ただ当然の事実でしかない。」

▲サモス

 

◇ ノルウェイジャン・ブラック・メタルとは何か

ノルウェイジャン・ブラック・メタル(ノルウェーのバンドによるブラック・メタル)には以下の特徴がある。

・ノルウェーの社会民主的な思想に興味深い形で挑戦している。
・個人主義的な思想を象徴している。
・文化や地域的特性が音楽や歌詞(他のメタルに比べ、重視されている)に影響している。
・死者をイメージした「コープス・ペイント」を顔に施している。

▲コープス・ペイント(Mayhem)

音楽的な特徴としては、「叫び」や「金切声」という言葉が似合うボーカル、寒々しいギター・リフ、神秘的な雰囲気を作りだすキーボード、ブラストビートを主体としたドラムなどが挙げられる。ヘヴィ・メタルの音楽に欠かせないギター・ソロが少ないのも大きな特徴である。そして、意図的にチープな音質で録音され、それがブラック・メタルにうまく溶け込んでいる。高音質で録音されたブラック・メタルを嫌う者は多い。

悪魔主義の思想で書かれた歌詞でないとブラック・メタルとはいえない。つまり、「ブラック・メタル=悪魔崇拝」と言える。悪魔崇拝とは各時代、各地域での大衆の要求にことごとく反抗することであり、文字通りの悪魔ではなく邪悪な力を擬人化している悪魔やルシファーといった概念を象徴として信じている。 しかし、あくまで「パフォーマンス」としての悪魔崇拝を名乗るブラック・メタル・バンドも多いのも事実であり、 一概に「ブラックメタル=悪魔崇拝」と定義するのは難しいところである。

▲ゴート・サタン

シャグラット(Dimmu Borgir)
「俺達がDimmu Borgirをブラック・メタル・バンドと呼ぶのは、歌詞がサタニックで凄くダークだからさ。ブラック・メタル・バンドには2種類あってね。1つは、口では「世界を征服したい」とかなんとか言いながら、どこかの地下でただ悲惨な音楽を聴いているだけのバンド。そしてもう1つは、俺達のようにもっとシリアスで自分達のやっていることが判っているバンドだ。」

「今のブラック・メタルは二派に分かれている。まずは、オールド・スクール・ブラック・メタルを完全に熱愛している連中。そして次に、もっとオープンな気持の連中。」

▲シャグラット

ノクトローン・カルト(Darkthrone)
「凄いアルバムになる可能性のあったものが、良過ぎる、クリア過ぎるサウンドによって台無しになってきた。俺はまた、殆どのバンドは自分達のサウンドを自分達でコントロールすべきだと思っている。」

フェンリッツ(Darkthrone)
「ヴァイキングなどの文化とうまい具合に合っている。ブラック・メタルらしくないが神の思し召しかもな。」

▲Darkthrone

ヘルハマー(Mayhem)
「俺たちはこの国に黒人がいることが気に入らない。ブラック・メタルは白人のためのものだ。」

※セールス的に成功しているブラック・メタル・バンド“Cradle of Filth”のように、「ブラック・メタルは聴かない」と公言するブラック・メタル・バンドもいる。

 

◇ 哲学

イーサーン(Emperor)
「今思えば、自分は違う、自分はすごくしっかりした視点を持ってるんだって、周りのみんなに示すことのほうが重要だったんだろうな。自分のアイデンティティを証明するために、周りから反応を引き出そうとしてたんだ。悪魔主義者は何かを追及する哲学者だと言える。」

▲イーサーン

 

◇ 悪魔崇拝

ブラック・メタルを演奏する人間に「悪魔崇拝者」が多いのは前述したとおりであるが、中でもGorgorothのゴール(Vo.)はホンモノさんである。

インタビュアー「Gorgorothの音楽を突き動かす動力源は何ですか?」
ゴール「サタンだ。

インタビュアー「では、サタンが表すものは何です?」
ゴール「自由。悪魔の再生こそが唯一の終着点だ。そして最終目的は“悪魔”という言葉を排除しすべてを悪魔にすること。」

▲ゴール

また、フェンリッツがライブ中に発したこうした発言も興味深い。

「俺が何より好きなのは、ステージから憎悪を広めることだ。オーディエンスを煽り、俺たちの代わりに汚い仕事をさせてやりたいのさ。」

 

◇ 簡易年表

・1991年、Mayhemのデッド(Vo.)がショットガンで自らの頭を打ち抜いて自殺。

▲デッド

ユーロニモス(Mayhem)
「俺たちは戦いを宣言したんだ。デッドが死んだのは、流行を追っかける奴らのせいで、もともとのブラック/デス・メタル・シーンがすべて破壊されてしまったからさ。今の”デス”メタルってやつは、ごく普通の、みんなに受け入れられた、滑稽なしろものになっちまった。そういうの、俺達は大嫌いなんだよ。」

「俺たちにはもうヴォーカリストがいない!デッドが自殺したんだ、二週間前にさ!ほんと悲惨だったぜ。最初に手首の動脈全部刻んで、それからショットガンで頭をぶち抜いたんだ。最初に見つけたのは俺だったんだけど、ゲッってくらいに気味悪かった。頭の上半分が部屋中に飛び散って、下半分はベッドの上まで脳味噌が流れ出してた。もちろん俺はすぐカメラを持ってきて写真を撮った。次のメイヘムのアルバムで使うつもりだよ。俺とヘルハマーはほんとラッキーで、彼の頭蓋骨の破片のでっかいのを二つ見つけてさ、それを形見のペンダントにしてる。」

▲ユーロニモス

ヴァーグ・ヴァイカーネス(Burzum)
「デッドは俺があげた弾丸で自殺した」

メタリオン(音楽雑誌)
「影響としたら、ブラック・メタル・シーンに目を向ける人間がますます増えたってことだね。何せ新聞沙汰になったから。ブラック・メタルもデス・メタルも、メタルそのものすら全然知らなかった連中が、いきなり寄ってきたんだよ。クールだと思ったんだろ。グリシュナックのことなどまるで知らない、ユーロニモスなんてまるで知らない連中だよ。そいつらがいきなり、「うん、ブラック・メタルな―今はこれだよ」みたいに考えた。新しいバンドがどんどん出てきたのは93年のあの頃からだ、みんな新聞記事の影響だよ。」

なお、これがデッドの自殺現場を収めた写真である。この写真はMayhemのブートレグ「Dawn of the Blackheart」に使われている。

▲Dawn of the Blackheart

・1992年、ヴァーグ・ヴァイカーネスが教会の放火で逮捕されるも、証拠不十分で釈放。しかし、ヴァーグはBurzumのアルバム「Aske」のジャケットに自身が燃やした教会の写真を使っている。

▲Aske

▲燃える教会

・1993年、ヴァーグ・ヴァイカーネスがユーロニモスを刺殺した容疑で逮捕。

ヴァーグ・ヴァイカーネス
「俺が彼を殺そうとした理由は、実際のところきわめて単純―彼が俺を殺そうとしたからだ。

「ここは居心地が良すぎる。どこが地獄なもんか。この国では受刑者がベッドにトイレやシャワーを与えられているんだぜ。まるっきり馬鹿げている。本物の牢屋に放り込めって警察に頼んだよ。それに暴力を使ったらいいって薦めてやった。」

▲ヴァーグ・ヴァイカーネスのプロモーション用写真

・同年、サモス(Emperor)が教会の放火で逮捕。

ゴール(Gorgoroth)
「教会放火にまつわることは当然100パーセント支持する。もっと、たびたび起こるべきことだ。キリスト教が世界に残した爪跡をこの世からすべて消し去らねばならない。」

ダニ・フィルス(Cradle of Filth)
「お願いだから大事な遺産にそんなことをしないでくれ!」

クロノス(VENOM)
「VENOMはノルウェーのバンドとは何の関係もない。奴らはあまりにもマジになり過ぎている!

▲クロノス

※Venomはブラック・メタルの創始者的なバンド。

 

◇ 参考文献

シンコーミュージック・エンタテイメント「BURRN!」
(1998.1-P.47、1998.7-P.67・P130、1999.6-P.185、2006.12-P44・P47・P49)

マイケル・モイニハン、ディードリック・ソーデリンド「ブラック・メタルの血塗られた歴史」(2009)
(P.65、P.66、P.82、P.85、P.149、P.158、P.263、P.414)

▲ブラック・メタルの血塗られた歴史

サム・ダン、スコット・マクフェイデン「メタル ヘッドバンガーズ・ジャーニー」(2005/映像作品)

 

― ugNews.net ―